
名古屋から20分、1300年つづく夏の夜があるんです — 長良川の鵜飼
ちょっと想像してみてください。岐阜の、あたたかい夏の夜。あなたは長良川にうかぶ木の舟に、低く腰をおろしています。背中側には街の灯り。そして前方の舟の舳先からは、本物のかがり火が——川の上で、ゆらゆらと燃えているんです。やがて太鼓と掛け声がはじまって、鵜が一斉に水へ飛びこむ。
これが「鵜飼(うかい)」です。正直に言うと、あまりに身近で、あまりに昔から続いているせいで、地元の人ほど「これってすごいことなんだ」と忘れてしまっている——そんな夜なんです。
この夜の主役、訓練された鵜。火に照らされた水面で。
かんたんに説明させてください。長良川では、およそ1300年ものあいだ、網や釣り糸ではなく「鵜(う)」という鳥を使って鮎(あゆ)を獲ってきました。鵜匠(うしょう)と呼ばれる人が、藁の腰みのをつけて舳先に立ち、何羽もの鵜を手綱でさばく。鵜の首にはゆるい結びがしてあって、小さな魚は飲みこめても、大きな鮎は飲みこめない仕組みです。見ていると一見めちゃくちゃ。でもじつは、何十年とかけて磨いた技なんですよね。
舳先に立つ鵜匠。何本もの手綱を片手に、火明かりのなか手の感覚で鵜をさばく。
毎回しみじみするのが、これは観光のために作られたショーじゃない、というところ。長良川の6人の鵜匠は「宮内庁式部職鵜匠」という正式な肩書きを持っていて、つまり宮内庁の職員なんです。獲れた鮎の一部は、いまも皇室へ届けられます。鵜飼そのものも国の重要無形民俗文化財。再現でも、演出でもない。本物の、生きた営みをそのまま見ているわけです。
あの松尾芭蕉も、300年以上前にこの鵜飼に心を動かされて、一句残しています。「おもしろうて やがて悲しき 鵜舟かな」。一時間ほど舟に揺られていると、この「やがて悲しき」がふしぎとわかってくるんです。
長良川の夏の夜。金華山の上に月、頂にはちいさく岐阜城。
そして名古屋まわりの方に朗報。岐阜はJRの新快速で20分ほど(運賃はおよそ470円)。遠出というより、ふらっと出かけられる「夜のお散歩」くらいの距離なんです。
ことしの開催は5月11日〜10月15日、ほぼ毎晩。観覧船に乗りこむかたちで、料金はふつうの夜で大人4,200円・子ども2,100円くらい、夏の土曜やお盆は少し上がります。舟は夕方に出て(出船は18:15/18:45/19:15)、暗くなるのを待ちながら過ごし、鵜飼が始まるのは19:45ごろ。この「待つ時間」も含めて鵜飼なので、どうか急がずに。
昼の観覧船。日が暮れたら、この舟のどれかに乗りこみます。
格好よく洗練された見世物ではありません。でも、それがいいんです。川風よけの羽織るもの、ちょっとしたおつまみ、そして「始まりはゆっくり」を楽しむ余裕だけ持って行ってみてください。返ってくるのは、千年あまり姿を変えていない、ひと晩です。
知っておくと安心
- 鵜飼とは: かがり火のもと、鵜という鳥を使って鮎を獲る、長良川(岐阜市)の伝統漁。
- 開催(2026年): 5月11日〜10月15日。9月24日の鵜飼休みと増水の夜をのぞき、ほぼ毎晩。
- 時間: 観覧船の出船は18:15/18:45/19:15ごろ、鵜飼の開始は19:45ごろ。
- 料金: ふつうの夜で大人約4,200円・子ども約2,100円。夏の繁忙日は少し高め。
- 行き方: 名古屋からJR新快速で岐阜まで約19分・470円、そこから長良橋方面へバス。
- 真夏とお盆は予約を: 人気の夜は早めに埋まります。
「中部の数日に、鵜飼のひと晩を組みこみたい」——そんなご相談、いつでもどうぞ。帰国してからも、ずっと話題にのぼる夜になりますよ。それでは、川の上で。

