
日本茶ができるまで。一枚の葉っぱが、湯呑みのお茶になるまでを追いかけてみた
文: Trip Japan YLP 編集部発行:Trip Japan YLP
目次
こんにちは!
前回は、同じ茶の木から生まれる煎茶と抹茶が、どうしてあんなに別ものになるの?というお話をしました。その違いのかなりの部分は、実は葉っぱを摘んだ直後の、ほんの数時間のあいだに決まってしまうんです。というわけで今回は、一枚の葉っぱが工場でどう変わっていくのか、いっしょに追いかけてみましょう。思っているよりずっとシンプルで、そして「ここですべてが決まる」という瞬間が、ちゃんとあるんですよ。
まずは時間との勝負
お茶の葉は、摘まれたその瞬間から変わりはじめます。そのまま置いておくと、じわじわ酸化して茶色くなっていく。緑の葉が紅茶やウーロン茶に変わるのと、同じ反応ですね。日本茶づくりは、この「茶色くなる」をいかに止めるか、で組み立てられているんです。だから摘みたての葉は、その日のうちに、ときには数時間で工場へ運ばれます。
そして最初のひと手間が、日本茶を日本茶たらしめている工程なんです。
蒸し。ここですべてが決まります
中国では、緑茶の葉はたいてい熱い釜で炒ります。でも日本では、蒸すんです。だいたい15秒から120秒くらい——ふだんの煎茶なら30〜90秒ほど——さっと蒸気を当てて、酸化をぴたっと止めて、あのあざやかな緑を閉じ込めます。
ささいなことに聞こえますよね。でもこれが、お茶の性格をまるごと決めてしまう。少し長めに蒸すと「深蒸し」——にごった濃い緑色で、まろやかに出る煎茶になります。短めなら、澄んだ、すっきりした一杯に。そしてこのタイミングを外すと、あとから取り返しがつかないんです。すべては、この一瞬の上に組み立てられていきます。
揉み。何時間もかけて、じっくり形にする
つぎに、葉っぱをひたすら揉みます。この「揉み」がいちばん長い工程で、三時間、四時間とかかることも。しかもひとつの作業ではなくて、粗揉(そじゅう)・揉捻(じゅうねん)・中揉(ちゅうじゅう)・精揉(せいじゅう)と、段階を踏んでいくんです。大きな機械が葉をこねて押して、水分を少しずつ追い出しながら、中の細胞をほどいていく。あとで急須のなかで、味がきれいに出てくるように、ですね。
これが煎茶のあの形も作っています。袋からザラッと出てくる、細くて濃い、よじれた針みたいな葉っぱ。あれ、この揉みの賜物なんです。保存がきいて、均一に出る形へと、少しずつ導いてあげているんですね。

機械がなかったころは、これをぜんぶ手でやっていました。「手揉み」です。あたためた台(焙炉・ほいろ)の上で、職人さんが四時間も五時間も、ひたすら葉を揉みつづける。いまもその技を守る名人が全国に少しだけいらして、じつは今の揉み機って、その手の動きを真似するように作られているんですよ。
乾燥。でも、まだ完成じゃないんです
最後にしっかり乾かして、水分を5パーセントくらいまで落とします。これで日持ちするようになる。そしてここまで来たお茶には、名前があります。「荒茶(あらちゃ)」——crude tea、つまり“未完成のお茶”です。ここ、あまり語られないところなんですけど。荒茶ってじつは、針みたいな葉に、茎のかけら、粉、大小いろんなサイズが入り混じった、ごちゃっとしたもの。お店の棚に並ぶ、あのきれいな姿ではまだないんです。
仕上げは、このあと問屋さんで行われます。荒茶を大きさで選別して切りそろえ、茎や粉をふるい分けて(それぞれ茎茶・粉茶という別のお茶になります)、それから「火入れ(ひいれ)」。やさしく最後の火を入れて、仕上げの香りを引き出してあげる。ここまでやって、ようやく「仕上げ茶」——ブレンドされ、袋に詰められ、一杯になる準備がととのうんです。
抹茶だけは、まったく別の道をいく
さて、ここで道が分かれます。抹茶になる葉は日かげで育てて、煎茶と同じように蒸して——そこから、揉まないんです。かわりに、平らなまま乾かす。背の高い乾燥炉のなかを、あたたかい風に乗ってゆっくり通り抜けながら、紙みたいにぱりっと薄くなるまで乾いていく。これが「碾茶(てんちゃ)」ですね。
そこから茎や葉脈を取りのぞいて、やわらかい葉肉だけにして、いよいよ石臼へ。臼はわざと、ゆっくりゆっくり回します。急ぐと摩擦の熱で、色も香りも鈍ってしまうから。石臼ひとつで挽けるのは、一時間にたった30〜40グラムほど。茶碗にして一、二杯ぶんです。本物の石臼挽き抹茶がけっして安くない理由は、ここにあるんですね。

だから次にお茶を淹れたり、抹茶を点てたりするとき、その裏にある静かな仕事を思い出してみてください。茶色くなる前につかまえて、数秒で蒸して、何時間もかけて形にした、一枚の葉っぱ。そもそもお茶ってどうやって日本にたどり着いたの、というお話は日本茶の歴史、煎茶と抹茶の違いはこちらに書きました。次回は「旬」のお話——新茶、その年いちばん最初のお茶と、なぜ季節がそんなに大事なのか。それではまた。
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