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玉露と抹茶、何が違う? 同じ“日陰育ち”の葉が、挽くか揉むかで別のお茶になる話

文: Trip Japan YLP 編集部発行:Trip Japan YLP

目次

こんにちは!

抹茶の値段の話をすると、だいたい次にこう聞かれるんです。「じゃあ、粉にしないで、葉っぱのまま飲む日本茶でいちばん高いのって何?」答えは玉露。しかも、これがちょっとおもしろいところなんですが、畑では抹茶とほぼお隣さんなんです(私も最初に知ったとき「え、そうなの」ってなりました)。

畑では同じ、工場で分かれる

抹茶のもとになる碾茶(てんちゃ)は、摘む前のだいたい20日くらい、黒い覆いをかけて日陰で育てます(出典によって少しずつ数字が違うんですが、20日という数字がいちばんよく見かけます)。抹茶がなぜ日陰で育てられるのかは以前も書きましたが、この“日陰”が葉の中身を変えるんですね。玉露も、ほぼ同じくらいの期間、同じように日陰で育てます。ちなみに「かぶせ茶」という言葉を見かけたら、これは覆う期間がもっと短い(1週間前後)、玉露と煎茶の中間みたいな存在です。

分かれ道は、摘んだあと。碾茶は絶対に揉みません。平らなまま、専用の炉でじっくり乾かして、茎や葉脈を取り除いて、最後は石臼で挽いて抹茶になります。玉露はまったく逆の道をたどります。蒸して、揉んで、ふつうの緑茶と同じように仕上げていく。あの、細くてくるっとした濃い緑の針みたいな形、見たことある方も多いんじゃないでしょうか。つまり玉露は「点てない抹茶」じゃなくて、抹茶のいとこみたいな存在なんです。同じ日陰育ちの葉が、粉になる道じゃなくて、ふつうのお茶になる道を選んだ、という感じ。

名前の由来もちょっとおもしろくて。江戸時代の茶商・山本嘉兵衛(6代目)が1835年(天保6年)ごろ、できあがったお茶を「甘露のように甘く、玉のようだ」と評したのが始まりと伝わっています。そこから“玉露”という名前がついたそうです。

なぜ“出汁”みたいな味がするのか

初めてちゃんと淹れた玉露を飲むと、たいていの人が一瞬「あれ、これお吸い物?」ってなるんです(笑)。大げさに言っているわけじゃなくて、ほんとうにお茶というよりお吸い物に近い味がするんですよ。

理由は、やっぱり日陰。日光を遮ると、葉のアミノ酸が渋み成分(カテキン)に変わる働きがゆっくりになって、代わりに旨味のもとになるテアニンというアミノ酸がぐっと増えます。抹茶も同じ旨味の恩恵を受けているんですが、粉ごと全部飲むので、濃くて厚みのある味になる。玉露はお湯に溶け出した分しか飲まないので、見た目は澄んで軽やかなのに、味はじっくり濃い……という、ちょっと不思議な体験になります。

淹れ方は、抹茶とほぼ真逆

抹茶は熱めのお湯と茶筅で、シャカシャカとリズムよく点てるお茶。玉露はその逆をいきます。お湯はだいたい50〜60℃くらいまで冷まして(普通に沸かしたお湯よりだいぶぬるめです)、量も少なめ、小さな急須や宝瓶(持ち手のない急須です)に注いで、2分くらいじっと待ってから注ぐ。

玉露をいちばん残念な味にしてしまう原因は、たいてい「待ちきれずに熱湯で淹れちゃう」ことなんです。それでもお茶にはなるんですが、あのお吸い物みたいな甘みじゃなくて、渋みのほうが出てしまう。二煎目、三煎目は少しお湯の温度を上げて、時間も短くしていくと、回ごとに違う顔を見せてくれます。

もうひとつ、初めて聞くとびっくりされることが多いんですが、淹れ終わったあとの茶葉を、ポン酢やお醤油をちょっとかけて食べる人もいるんです。低い温度でじっくり淹れると葉がやわらかいままなので、おひたしみたいにいただける。お湯に溶け出さない栄養も、葉のほうに残っているのでそれも理由のひとつと言われています。

カフェインと値段の、正直なところ

日陰で育てた若い葉は、カフェインが多めになると言われていて、そこは玉露も抹茶も似た者同士です。ただ、実際にカップに出てくる量は淹れ方でかなり変わります。玉露はぬるいお湯で淹れるので、熱いお湯で淹れるより出てくる量は控えめだと言われています。とはいえ数字で言い切れるほど資料が揃っていないので、ここではあえて具体的な数字は出しません。

値段についても、正直にいきます。玉露は日本のお茶のなかでも、いちばん手間がかかる部類だと言われています。何週間も覆いをかけて、そのあとの扱いもとても繊細。だからといって金額を出すことはしませんが、「気軽な値段ではない」というくらいには思っておいてください。いちばん安い葉っぱをおいしくするのがほうじ茶なら、玉露はその真逆。農家さんが、カップに届くまでにいちばん手をかけているお茶、という感じです。

もうひとつ、静かに進んでいる話もあります。世界的に抹茶の人気が急上昇していて、碾茶の生産量もそれに合わせてかなり増えています(この10年でだいたい3倍近くという政府統計もあるくらい)。もともと玉露に使われていた日陰の畑の一部が、碾茶に振り替わっているとも言われています。はっきり証明されたことではないんですが、抹茶が脚光を浴びる隣で、玉露が少し静かな存在になっている理由のひとつかもしれません。

日本のどこで出会えるか、ラベルの読み方

玉露の産地としてよく名前が挙がるのが、京都の宇治、福岡の八女、そして静岡・藤枝市の朝比奈の3つ。もし藤枝の近くまで行く機会があれば、「玉露の里」という公共の施設があって、お茶室でちゃんと淹れてもらった一杯をいただけます。お茶どころへの旅の途中なら、ちょっと寄り道するのにちょうどいいと思います。

4月から5月ごろ、茶畑のあいだを車で通ることがあったら、黒い網(寒冷紗といいます)や、京都の宇治のような伝統的な産地だと葦簀(よしず)やわらで編んだ覆いが畑にかかっているのを探してみてください。それがまさに、碾茶や玉露の畑が“日陰づくり”をしている瞬間。一度知ってしまうと、車窓の景色がちょっと違って見えると思います。

ラベルの表示では、玉露・かぶせ茶・煎茶は、主に「摘む前にどれくらい日陰で育てたか」で区別されています(日本のお茶業界の表示基準による目安です)。煎茶はほとんど覆いなし、かぶせ茶は1週間前後、玉露は20日くらい。朝比奈がある静岡中部は、私たちが以前紹介した煎茶の産地・川根ともそう遠くありません。同じ静岡の中でも、産地ごとに得意なお茶が少しずつ違っていて、車で行き来できる距離に並んでいるんです。

抹茶が日本茶の“よそ行きの服”で、ほうじ茶が帰ってからの“部屋着”だとしたら、玉露はまた別の位置にいる気がします。年に何度かの、ちょっとした“ごちそう”みたいな存在。今度、小さな器に少しだけ注がれた、澄んだ色のお茶が出てきたら、慌てずに、一口目を待ってみてください。きっと、いい意味で裏切られると思います。

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